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August 14, 2007

モスクワからの退却

出演 加藤健一 久野綾希子 山本芳樹

久々の加藤健一事務所。カトケン自体も結構好きだけど、今回観に行こう、と思ったのは久野さんがでるから。彼女は中学の友人が好きで、まだ四季にいたころに彼女の強力なお勧めもあり親にねだって「CATS」を観に行ったのが最初。考えてみれば芝居を親にねだって連れて行ってもらった、なんていうのもこれが初めてで(たぶん後もほとんどない)、完全に複数キャスト制を敷いている四季なのにこれまた運よくグリザベラが久野さんで、「メモリー」に大感動しました。その後いろいろな人の「メモリー」を聞いたが未だに彼女のを超える人はいない、というのはたぶん前に書いた。歌がうまい人で、声にも歌い方にもドラマがあるひとだけれど、歌がなくても芝居だけでも彼女の演技に私は惹かれるのだな、と今回認識を新たにしました。

どこにでもあるような普通の家庭。成人し、家を出ている息子と子どもを育てそろそろ自分たちの老後が気になる年代の夫婦。口下手なのがありありとわかる、教師をしている夫と弁の立つ、詩を口ずさむ才気ある妻。
本に没頭する夫に対して、妻は夫婦の対話を求め続け夫を自分に向かせようとなじり続ける。妻としてもそろそろ人生の後半に差し掛かり、夫と向き合う時間を増やしたいだけなのだが、その手法はあまりに独善的で、自分本位で 夫を困惑させ、追い込んでいってしまい…そして夫は耐え切れず新しい生活を求め、妻に別れを切り出す。自分に満足せず、常に自分に不満を抱き改善を要求する妻に対して、ありがままの自分を受け入れ、平和にともに暮らせる新しい女性を選んだのだ。不満を突きつけつつ夫との別れなど予想だにしていなかった妻は驚愕し、怒り、夫とその女性を憎み、それでも夫が自分の元に戻ってくるのを信じて待ち続ける。それでも戻ってこない夫に対して怒りをつのらせていくのだが…。

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なんか見ていて痛い痛いお話でした。加藤さん演じるエドワード、決して彼を愛していない訳ではなく、いや愛するがゆえに自分の理想とする形で自分と向き合って欲しい久野さん演じるアリス。本人はそのつもりはなくても、観客には彼女が発する言葉の一つ一つがエドワードを追い詰めていくのがわかってしまいます。「変われ」と要求される、ということは自分を否定されている、と相手に感じさせる要素を常に含んでいますからね。自分に万全の自信があるひとならともかく、そうでなければそう要求され続ける毎日は辛い。仕事でも辛いと思いますが、ましてや家で毎日妻に、ですからね。執拗にエドワードの姿勢を責め続けるアリス、その結果365日安息を得られないエドワードに観客は同情し、家を出たくなる彼の気持ちを理解します。観客と同じ視点に立つのが二人の息子のエドワード、でも彼は父を愛しているのと同じくらい母も愛しており…たぶん、一番の彼女の理解者。彼の客観的視点を交えて舞台は成立します。アリスはエドワードを愛しているのは事実で、でも彼女は「夫婦」という基盤によりかかるがあまり、エドワードの気持ちを理解しよう、という意識が足りなかった。自分は誰よりも相手に自分のほうを向いてほしい、と思っているのに自分は相手のほうを見ても向いてもいなかった、というのが現実。その結果、理想を振りかざさずにありのままの彼を受け入れた女性に夫を取られてしまう。磐石だと信じて旗を振っていた足元が崩れていってしまうアリスに共感は出来ないけれど、自分だって気づかずに身近な人を追い詰めたり傷つけていたりする可能性はじゅんぶんあるのかもしれないし、自分が傷ついた時にそれを相手に伝える義務もあるんだとは思います。
その意味では普遍的な心理を含んだ話です。アリスは夫の気を引くためには人前で服を脱いだりするかなりエキセントリックな女性に描かれていたけれど、この話のテーマからするともう少し、普通の女性にした方が良かった、と思うのだけれど。
最後に別れてしまったけれど長年の夫婦としての生活が無駄じゃなかった、と二人の心が寄り添う場面はほっとさせられる許しと癒しの場面。だからこそ、そこがラストシーンでも良かったかなあ…後の息子の独白は入らなかった気がする(山本くんはベテラン二人に混じっての好演でしたが)

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